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第9話 イケメン(青)は世界最強

last update Last Updated: 2025-02-23 17:40:38

「え?」

驚く穂香に生徒会長は、困ったように微笑みかける。

「僕もクラスの居心地が悪くてね。昼休みは、いつもここにいるんだ。君とは理由が違うんだけど」

「そうなんですね……」

その理由は、初対面の穂香には教えてくれなさそうだ。

「だから、いつでもここにおいでよ。僕でよければ相談にのるから」

「ありがとうございます!」

穂香がお礼を言うとチャイムが鳴った。あと5分で昼休みが終わる。生徒会長はお弁当を片づけて立ち上がった。

穂香が「あっ、お弁当を食べる邪魔をしてしまいましたね」と伝えると、生徒会長は「いいんだ、いつも多すぎて食べきれないから」とため息をつく。

「じゃあ、また」

「はい」

生徒会長の背中が見えなくなった頃、どこに隠れていたのかレンが姿を現した。

「どうでしたか?」

「それが……。いつでもここに来ていいって。相談にも乗ってくれるって」

「やるじゃないですか」

「自分でもビックリだよ。友達になれたわけじゃないけど、生徒会長と顔見知りにはなれたと思う」

「素晴らしい成果ですね! さすが穂香さん」

手放しでレンが褒めてくれるので、なんだか照れくさい。

「では、最後の恋愛相手に会いに行きましょうか」

「最後は、先生だよね」

「そうです」

レンの言葉を聞いた穂香は、ずーんと心が重くなる。

「先生と生徒の恋愛なんて、マンガやゲームの中だけの出来事だよ。現実では無理だって」

「大丈夫ですよ。ここはゲームの世界なので」

「あっ、そうだった……」

穂香がため息をつくと、また風景が変わり、目の前に文字が浮かんだ。

【同日 放課後/職員室前】

「まさか、職員室の中に入っていけとは言わないよね?」

「入るしかないんじゃないですか?」

「他の先生もたくさんいる中で、松凪先生と仲良くなれと!?」

「大丈夫です。他の先生はモブなので、あなたには見えませんよ」

「そうでした……」

「しっかりしてください」と言いながら、レンはまた小さなメモ帳をめくる。その様子を見ながら、穂香は『無理でもなんでも、結局やるしかないんだよね』とあきらめた。

「もう、今日の授業の質問でもして無理やり先生に話しかけるよ。それで、先生の情報は? 何者なの?」

またどこかの御曹司や財閥の跡取りなのかもしれない。穂香が、『とりあえず、お金持ちには違いない』と思っていると、レンは予想外なことを言った。

「先生は、世界で一番強い人間ですね」

「は?」

今までと違う情報に、穂香は首をかしげる。

「どういう意味?」

「さぁ? 私も恋愛相手については、このメモ帳に書いてあることしか分からないんですよ。詳しいことは、穂香さんが彼らと仲良くなって知っていくしかありません」

「そうなんだ……。もちろん、レンは付いてきてくれないんだよね?」

「当たり前です」

再びため息をつきながら、穂香は職員室の扉をノックした。

「失礼します」

騒がしい教室とは違い、職員室の中は静かだ。先生方の机がたくさん並ぶ中、真っ青な髪が見える。

(すぐに見つけられて便利といえば、便利だね)

先生は、まだ二十代で若く、生徒達とも気軽に話すのでとても人気がある。でも、穂香は先生とおしゃべりするような明るいキャラではない。

おそるおそる先生に近づくと、「あのぉ」と声をかけた。

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    「……は?」穂香のまぬけな声を無視して、レンは「ああ、言えた……やはり、そうか……」とつぶやく。「現実の私は、常に監視されていて、自分や未来にかかわることをあなたに伝えられない状態だったのです。言おうとすると、一時停止がかかり、内容を修正されます」「は、え?」レンの表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。「今、私達が閉じ込められているこの世界は、現実世界に恋愛ゲーム要素を被せてつくられたもので、現実に影響を及ぼすことができる高度な仮想空間です」ぽかんと口を開けている穂香をよそに、レンは説明を続ける。「あなたは、この仮想空間で選ばれた相手から必ず告白されないといけません」「ど、どうして?」レンの話を聞いていると、穂香達が恋愛ゲームに紛れ込んでしまったのではなく、まるで穂香のためにその仮想空間が作られたように聞こえる。「それは穂香さんがこのままでは、人類滅亡のきっかけを作ってしまうからです」レンの話がぶっ飛びすぎていて、穂香はもう何も言えなかった。「私が住んでいる時代――あなたからすると遥か遠い未来の世界は、あと数百年ほどで、人類が滅亡します」「いや、ちょっと待って……」レンは教室の壁にかかっている時計を見ると「もう目覚める時間のようですね。思っていたより短いな」とため息をついた。「穂香さん」レンの緑色の瞳がまっすぐ穂香を見つめている。「私を信じることができますか?」*聞きなれた目覚まし時計の音で、穂香は目が覚めた。【10月9日(土)朝自室】夢の中でレンがとんでもないことを言っていたような気がする。(私が原因で、人類が滅亡する……とか、なんとか?)意味が分からないので、今すぐレンを質問攻めにしたいところだが、レンは監視されていて夢の中以外では、真実を話せないと言っていた。「とりあえず、学校に」いつもなら、ベッドから下りたら風景が変わり通学路を歩いているのに変わらない。(あっそっか、今日は土曜日だから学校がないんだ)部屋の中にいても仕方がないので、穂香は私服に着替えて玄関に向かった。姿が見えない母の声が聞こえる。「今日は早起きね。どこかに行くの?」「ちょっとレンに会ってくる」家から出た穂香は、隣のレンの家ではなく、別の方向に歩き出した。(頭が混乱しているから、レンに会う前に整理しないと。まず、

  • 恋愛ゲームの世界から脱出する方法はイケメンからの告白!?   第17話 高橋レン(緑)の秘密①

    【同日 朝/体育館裏】通学路を歩いていたのだから教室に着くと思っていた穂香は、目の前に現れた文字を見て目を見開いた。「あれ? どうして体育館裏に飛ばされたの?」その問いに応えるように、レンがポケットから折りたたんだ紙を取り出す。「おまじないを完成させろということでは?」「あっ、そうか。おまじないで使った紙を、こっそりと学校内のどこかに埋めないとおまじないが完成しないんだったね」辺りを見回しても人の気配はない。穂香とレンは視線を合わせて頷いたあと、やわらかそうな部分の土を手で掘って紙を埋めた。「これでよし!」立ち上がった穂香は、背後から声をかけられ身体をビクッと震わす。「白川と高橋?」振り返ると真っ青な髪が、穂香の視界に映った。「せ、先生」「お前達、ここで何をしているんだ?」青い瞳は、こちらを探るように見つめている。返答に詰まった穂香の代わりにレンが答えた。「先生こそ、こんなところで何をしているんですか?」「ああ、俺か? 俺はな、生徒の監視だよ」「監視?」レンの声が低くなったような気がする。先生は「ほら、最近変なのが校内で流行ってんだろ」とため息をついた。「確か『恋が叶うまじない』だったか?」ギクッとしてしまった穂香を、レンがさりげなく背後に隠す。「お前達は、やってないだろうな?」その声は咎めるようだった。(これ、バレたらまずいんじゃ……)あせる穂香とは対照的に、レンは涼しい顔で「やっていません」と嘘をつく。「まぁ、なんでもいいが、まじないはやめとけよ」「どうしてですか?」穂香が不安そうな顔をすると、先生はしゃがみ込んで木の枝を拾い地面に『呪い』と書いた。「まじないは、漢字で書くとコレだ。ようするに、呪(のろ)いだ、呪い」「呪い……」青ざめる穂香を見て、先生は表情をやわらげる。「怖がらせて悪いな。まぁ、この世界のまじないは遊びみたいなものだから、なんの影響もないんだが念には念をだ」先生が立ち去ると、風景が変わった。【同日 昼/教室】「お昼になってる……」穂香は2つ持ってきたお弁当のうち、1つをレンに渡した。「今日も、私の分があるんですね」「嫌だった?」「いいえ、食べてもお腹を壊さないことが分かったのでいただきます」「失礼な……。だから、私じゃなくてお母さんが作ったから大丈夫だって」昨日と

  • 恋愛ゲームの世界から脱出する方法はイケメンからの告白!?   第16話 おまじないの効果は?

    【同日 夜/自室】いつのまにかパジャマに着替えた穂香は、一人ベッドに腰かけていた。(もう夜になってる。恋愛イベントがないときは飛ばされるはずなのに、飛ばされないということは……)穂香の手元には穴織から貰ったおまじないの紙と、そのやり方が書かれた紙がある。(このおまじないが、恋愛イベントに関係あるってことだよね? でも、レンはやるなって言ってた)悩む穂香の前に透明な2つのパネルが現れた。それぞれのパネルには『おなじないをやる』『おまじないをやらない』と書かれている。(選択肢が出てきたってことは、かなり重要なイベントなんじゃないのこれ?)どちらのパネルを押そうか迷った末、穂香は『おまじないをやる』パネルにふれた。そのとたんにパネルが光り消えてなくなる。(失敗してもループするだけだから、やるだけやってみよう!)穂香はおまじないのやり方にサッと目を通す。(まず、『好きな人を思い浮かべながら針で指を刺し、おまじないの紙の中心に自分の血をつける』って、だいぶ本格的……。おまじないというよりヤバイ儀式っぽい)その紙を折りたたんで枕の下に敷いて寝ると、思い浮かべた人の夢が見れるらしい。そして、次の日に、この紙をこっそりと学校内のどこかに埋めるとおまじないが完成すると書かれている。(ふーん? これを何回も繰り返すと、夢が現実になって恋が叶うんだよね? 本当かな)針で指をさすのはなかなか勇気がいったが、やるしかないと覚悟を決めた。おまじないの準備を終わらせると、枕の下におまじないの紙を入れる。(この状態で寝たら、好きな相手の夢が見れるんだよね? 私、レンのこと、別に恋愛相手として好きじゃないけど、おまじない成功するのかな?)そんなことを考えながら穂香は、そっと目を閉じた。*穂香が目を開けると、学校の教室に緑髪の青年が佇んでいた。(レン、だよね?)どうしてそう思ったかというと、レンがトレードマークともいえるメガネをかけていなかったから。穂香に気がついていないのか、レンは教室の天井を見たり、机にさわったりしながら、首を捻っている。「夢をコントロールする機能なんて、この世界にはないはずなのに……」そんな呟きが聞こえてきた。「レン」穂香が声をかけると、レンは驚きながら振り返る。「穂香さん? まさか、本当にあのおまじないに効果があったなんて」

  • 恋愛ゲームの世界から脱出する方法はイケメンからの告白!?   第15話 怪しいおまじない

    レンと並んで通学路を歩いていると、風景が変わった。【同日 昼/教室】「うわっ、お昼まで飛ばされた!?」驚く穂香の横で、レンが考え込むように腕を組んだ。「恋愛に繋がるイベントが何も起こらなかったということですね」「そ、そうなんだ」「そもそも、サポートキャラの私との恋愛イベントが、この世界に存在するのかすら怪しいですが」「うっ、それを言われたらつらい! でもだからこそ、自分でイベントっぽいことを準備して来ました」穂香は鞄の中からお弁当を2つ取りだした。「すごい食欲ですね」と言うレンにひとつ渡す。「それはレンの分だよ」「私? いえ、私は食べません」「そんなこと言わずに! せっかく持ってきたんだから」半ば無理やりお弁当を押し付けると、レンはしぶしぶ受け取る。「……うーん……」お弁当のフタを開けたものの、食べようとはしない。穂香は、卵焼きをお箸で掴むとレンに差し出した。「はい、あーん」「怒りますよ?」「そんな怖い顔しないでよ! これでもレンに好きになってもらうために頑張ってるんだから」必死な穂香に戸惑ったレンは、遠慮がちに口を開けた。そのまま、パクッと卵焼きを食べる。無言で咀嚼するレンを、穂香は心配そうに見つめた。「どう?」「味はいいですね」「うんうん、そうだよね!」レンは「あとは、私がお腹を壊さないかですね」と深刻な顔をする。「失礼な……大丈夫だよ。それ作ったの私じゃなくてお母さんだから」穂香はふと視線を感じて振り返った。そこでは、すごいものを見てしまったというような顔で穴織がこちらを見つめていた。「あ、穴織くん?」化け物と戦っていたことが頭をよぎり、穂香の声は思わず震える。でも、穴織は昨日のことなんてなかったかのように、いつも通りだ。(そっか、穴織くんは、私の記憶を消したと思っているから、私もいつも通りにしないと)穂香がニコッと作った笑みを浮かべると、穴織は大げさな動きで頭を抱えた。「自分ら幼なじみとか言って、ガッツリ付き合ってるやん!」「付き合ってないよ」否定した穂香のあとにレンも続く。「付き合ってませんね」「じゃあレンレンは、付き合ってない女子に、あーんで食べさせてもらったん?」「そうですね。流れで仕方なく」穴織は「こっちの学校はすごいなぁ」と感心している。「まぁ、自分らが付き合ってないならちょ

  • 恋愛ゲームの世界から脱出する方法はイケメンからの告白!?   第14話 好きになってもらうための努力

    「別の世界線では、穴織くんが主役になれる……。なるほど」確かに話す武器を持って化け物の戦っている穴織は、主役級のストーリーがありそうだ。そう納得した穂香は、ハッと気がつく。「じゃあ、生徒会長や先生にもそういう隠された秘密があるってこと!?」「そうなりますね」「どうして、この世界は平凡すぎる私に、そんなキャラの濃い人達と恋愛させようと思ったの!? 絶対に無理でしょうが!」頭を抱えた穂香に、レンは「深く考えたら負けですよ」と微笑みかける。「夢なのに、なかなか冷めないし……。やっぱりもうレンに好きになってもらうしかないよ」穂香が縋るように見つめると、レンの瞳がスッと細くなる。「それこそ無理だって言っているでしょう? 人の心はどうにもなりませんよ。そんなことより、せっかく穴織くんの秘密が分かったのだから、穴織くんと恋愛すればいいのでは?」「いや、記憶を消されそうになったんだよ⁉ 怖いから無理! 私はレン以外と恋愛は無理だから!」レンは、深いため息をついた。「そもそも、私があなたを好きになるためには、あなたも私のことを好きになる必要があるのでは?」「そっか……そうだね。恋愛をするんだから、お互いに歩み寄らないといけないよね」それが分かっても恋愛経験ゼロの穂香には、何をどうしたらいいのか分からない。穂香は、改めてレンのいいところを探してみた。「えっと、素敵なメガネですね」「それってもしかして、私をほめて仲良くなろうとしています?」「うん」「でしたら、もっと他に言い方があるでしょうに、まったくあなたという人は……」レンのあきれた視線が穂香に刺さる。「だって私、付き合ったことはもちろん男友達すらいたことがないんだって! だから、私に恋愛は無理だって言っているのに……」うっかり涙ぐむと、レンはまたため息をついた。「あなたに恋愛経験がないことくらい知っていますよ。でも、ここは恋愛ゲームの世界なんですよ? 難しく考えずゲーム感覚で頑張ってみては?」「ゲーム感覚……ということは、レベル上げとか?」穂香の言葉を聞いたレンは「と、言うと?」と言葉の先をうながす。「ほら、ゲームってレベルを上げたら強くなるでしょ? だから、私は女子力レベルを上げて、レンの好みの女性を目指すのはどうかな?」「なるほど」「で、レンの好みは『積極的に問題を解決する人

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